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★内容: 現代イギリス最高の作家が渾身の力で描く記憶と過去をめぐる至高の冒険譚。1900年代初め。上海の租界に暮らしていたクリストファー・バンクスは十歳で孤児となった。貿易会社勤めの父と反アヘン運動に熱心だった美しい母が相次いで謎の失踪を遂げたのだ。父親が自宅から突然姿を消したとき、クリストファーは友だちのアキラと探偵ごっこに夢中だった。「中国人街のうさぎ小屋のような路地で追いかけっこや殴り合い、撃ち合いをしたあと、詳細は違っていても決まって必ず、ジェスフィールド公園での壮大な儀式で探偵ごっこは締めくくられた。その儀式で僕たちは、一段高くなった特別ステージにひとりずつ上り・・・拍手喝采を送る群衆に向かって挨拶するのだった」 次いで母親までもが行方不明となったクリストファーは、イギリスへ送られることになる。2つの世界大戦に挟まれた時代を彼はそこで過ごし、やがて「自称」有名な探偵になる。しかし家族を襲った運命が彼の頭から離れることはなかった。クリストファーは懸命に記憶をたどり、両親の失踪に何らかの意味を見出そうとする。そして1930年代末、ついに彼は日中戦争が勃発し混迷をきわめる上海に舞い戻り、自分の人生において最も重要な事件の解決に乗り出すのだった・・・。しかし調査を進めるにつれ、現実と幻想との境界線は次第にあいまいになっていく。彼の出会った日本兵は本当にアキラなのか。両親は本当に中国人街のどこかに監禁されているのか。そして、何か重要な祝典を計画しているらしいグレイソンというイギリス人の役人はいったい何者なのか。「まず何よりも先にお聞きしたいのはですね、儀式の会場をジェスフィールド公園にすることでよろしいかということです。なにしろ、かなり大きなスペースが必要となりますのでね」
『When We Were Orphans』でカズオ・イシグロは、犯罪小説の伝統的な手法を用いて、少年時代のトラウマが落とす影から逃れられないでいる困惑した男の心情を感動的に描き出している。シャーロック・ホームズは推理の際、泥のついた靴や袖についた煙草の灰といった断片的な証拠で事足りた。しかしクリストファーに残されたのは消えゆく遠い昔の記憶だけ。彼にとって、真実はもっとずっと捕らえ難いものだった。小説は一人称で書かれているが、クリストファーの慎重に抑制された語りには冒頭からほころびが見られ、彼を通して見る世界が必ずしも信頼できないことを暗示する。そのため読者は、自らもまた探偵になることを迫られ、クリストファーの記憶の迷路を真実のかけらを求めてさまようのである。 イシグロはもともと派手な弁舌に走る作家ではない。しかし、この作品に漂うもの静かなトーンは、かえって強く感情を揺さぶってくる。『When We Were Orphans』は見事なまでにコントロールされた想像力の傑作である。そしてクリストファー・バンクスは、著者の創造した人物のなかでも、最も印象的なキャラクターのひとりと言えるだろう。
★著者、カズオ・イシグロ(Sir Kazuo Ishiguro OBE FRSA FRSL、 漢字表記:石黒一雄)は1954年、長崎生まれ。1960年、五歳のとき、海洋学者の父親の仕事の関係でイギリスに渡り、以降、日本とイギリスのふたつの文化を背景に育つ。その後英国籍を取得した。ケント大学で英文学を、イースト・アングリア大学大学院で創作を学ぶ。一時はミュージシャンを目指していたが、やがてソーシャルワーカーとして働きながら執筆活動を開始。1982年の長篇デビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年発表の『浮世の画家』でウィットブレッド賞を受賞。1989年発表の第三長篇『日の名残り』では、イギリス文学の最高峰ブッカー賞に輝いた。1995年には大英帝国勲章(オフィサー)、1998年にフランス芸術文化勲章を受章。2008年には『タイムズ』紙上で、「1945年以降の英文学で最も重要な50人の作家」の一人に選ばれた。2017年にはノーベル文学賞を受賞。自身に対する高い評価について、移民の流入によりイギリス社会が大きく変動している中で、マイノリティーに属しながら伝統的な英文学の素養を基にする作品が多民族主義への回答となり得ると思われたためであろうと述べている。本人は幼年期に渡英しており、日本語はほとんど話すことができないという。1990年のインタビューでは「もし偽名で作品を書いて、表紙に別人の写真を載せれば『日本の作家を思わせる』などという読者は誰もいないだろう」と述べている。ロンドン在住。
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