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[中古本] | ||
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妻と愛人、二人の女にひかれる男の情痴のあさましさを、 美しい上方言葉の告白体で描き、幽艶な幻想世界を築いて絶賛を集めた代表作。 「人にもの問われても、ろくに返答もでけんような穏当な女」である主人公“おはん"は、夫の心がほかの女、芸妓“おかよ"に移ったとき、子供を身ごもったまま自分から実家に退いた。おはんとおかよ、二人の女に魅(ひ)かれる優柔不断な浅ましくも哀しい男の懺悔――。 頽廃的な恋愛心理を柔軟な感覚と特異な語り口で描き尽し、昭和文学の古典的名作とうたわれた著者の代表作。 宇野さんはこの小説を書くのに十年の時間をかけたという。時間をかけた仕事のいみじさを、はっきり感じる。しかも十年まえ十年あとの記述にむらがない。一つの作にこれだけ打ち込んだ宇野さんに敬意を表したい。――久保田万太郎 あくまで古風な、日本庶民の、或は凡夫の、懺悔心をひそめた〈かきくどく〉調子で全篇がつらぬかれている。――亀井勝一郎 木で熟した果実は速成とは味が違う。二人の女にひかれる男の情痴の浅ましさを極度に抽象して、ほとんど観念的な美にまで昇華して描いている。――河上徹太郎 近松でも読む様な一種の味わいがあって面白かった。特に初めの方がよいと思った。作者は、時も場所も不問に附し、不思議な魅力を持った話術を創案して、言葉が言葉だけの力で生き長らえたいと言っている様な、一種の小説的幻想世界を発明している。事実に屈服した現代小説界では珍しい事である。――小林秀雄 著者の言葉 強いて言えば、この小説のモデルは私自身であるような気がしています。おはんの中にもおかよの中にも自分がいるように思われ、話し手のあの男の気持も、自分の心中を描いたように思われます。 最初に企図したと思っていた「ちゃんと最初にプランを立てた、」私自身、小説の第一作と思っているこの小説も、以上のような意味でやはり私小説の或る形態なのではないかとも思われます。 あるとき人に、「これくらいの小説を死ぬまでにあと十篇くらい書いておきたい、」と話しましたら、言下に、「もう遅いですよ、」と言われました。私の才能では、これがせい一ぱいの仕事かと思いますと、何を自慢にして好いのかと思います。(「あとがき」) 本書「解説」より 「おはん」は「操り人形」を真似たような姿で今後の星霜にも永く耐えうるだろう」と三好達治氏が述べているように、浄瑠璃の人形のような美しさがある。だがそれは決して生きた血が通っていない人形という意味ではない。文楽の太夫さんたちが使う人形が、生ま身の人形以上に人間の真実の姿を、極限の美を表現しているという意味である。この語り手の阿呆のような男は実は人形遣いではないか。 ――奥野健男(文芸評論家) 宇野千代(1897-1996) 1897(明治30)年、山口県岩国生れ。岩国高等女学校卒業。1921年処女作『脂粉の顔』が「時事新報」の懸賞小説で一等に当選。1922年上京、尾崎士郎や東郷青児との恋愛・同棲のあと1939年北原武夫と結婚、1964年離婚。1957年『おはん』で野間文芸賞、女流文学者賞を、1982年「透徹した文体で情念の世界を凝視しつづける強靱な作家精神」によって菊池寛賞を受賞。著書に『色ざんげ』『風の音』『雨の音』など多数。現役の最長老作家として1996年6月10日急性肺炎で死去。
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